トイレのふた、流す前に閉める?
コロナで気になる問題、専門家の答え 90年前からあった「本来の役割」
在宅で勤務をすると、しょっちゅうお世話になるのが自宅のトイレ。あまりに使いすぎて気になることがあります。それは、流す時に便座のふたを閉めるべきか否かということ。自動でふたが開閉するタイプが自宅にある人は少ないはず。昔から議論のある話ですが、長期戦の今、切実な問題です。トイレのメーカーで作る団体などにふたの成り立ちを聞き、専門家にトイレでの注意点も教えてもらいました。
部屋の中に置いていた時代
そもそも、この「便ふた」はいつ登場したのでしょうか。2017年に創立100周年を迎えたTOTOの「百年史」を参照すると、今から約90年前の1929年に出荷された「高級腰掛便器」にふたがあることを確認できます。
トイレのメーカーで作る団体「日本レストルーム工業会」の担当者は「国産化される前の輸入品の時代からふたはついていたと思われます」と話します。TOTOによると、1914年に国内で初めて洋式水洗便器を開発。その当時すでに、ヨーロッパでは便ふたがついた便器が存在していたといいます。
「便座のふたは、少なくとも今の日本のトイレでは必ず必要なわけではありません」とTOTOの担当者。それでも、歴史として「昔、水洗の設備がなかった頃は便器を部屋の中にも置いていたため、臭いを塞いだり、体裁を良くしたりするためにふたが必要でした。また、用を足すとき以外はしていた方が見栄えも良いし、便器の中に間違って物を落とす心配もなく安心です」。スマートフォンを落として絶望した記憶がよみがえります。
水の飛散が防止できる
それでは本題です。自宅のふたも閉めてから流した方が良いのでしょうか。工業会の担当者は「便器の外への水の飛散を防止するために、ふたを閉めることは有効と考えられます」と話します。
ただし、補足として「ふたの本来の目的は、便器内への異物の落下防止・意匠性・暖房便座の断熱性向上などです。結果的に水の飛散は軽減できますが、感染という医学的な影響に関する知見はないため、ふたのあるなしに関わらず、手洗いや必要な消毒を行ってください」。
医学的な観点も気になります。ずっと在宅で済む人ばかりではないため、どうしても公共のトイレを使うことになる人も多いかと思います。その場合にも気をつけるべきことはあるのか、東京医療保健大学大学院の菅原えりさ教授(感染制御学)が教えてくれました。
そもそも新型コロナウイルスはトイレを使うだけで感染することはあるのでしょうか。菅原さんは「前提として、おしりに付着しただけでは感染しません」と話します。可能性としては、おしりなどに付着したウイルスが口や鼻に入ることで起こるものです。
そのルートとして、排泄物が飛び散ったものを吸いこんでしまった場合や、手についた排泄物を気づかないうちに口や鼻へ運んでしまう場合の2パターンが考えられるといいます。
菅原さんは「トイレの中で誰かが触れた部分を拭いて消毒することはできますが、ずっとその状態をキープするのはなかなか難しいと思います。そこで、最終的には自分の責任で、自分の手を洗うことが一番大切になってきます。人の出入りが激しいところでは特に大事です」と強調します。
手洗いや消毒については、厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)」が参考になります。
ここでは「感染者の糞便から感染することがありますか」という問いに対し、「これまで通り通常の手洗いや手指消毒用アルコールでの消毒などを行ってください。また、新型コロナウイルス感染症の疑いのある患者や新型コロナウイルス感染症の患者、濃厚接触者が使用した使用後のトイレは、急性の下痢症状などでトイレが汚れた場合には、次亜塩素酸ナトリウム(市販されている家庭用漂白剤等はこれにあたります、1,000ppm)、またはアルコール(70%)による清拭をすることを推奨します」という答えが載っています。
リンク:https://news.yahoo.co.jp/articles/b593f95232c158ab3485e0c6cc3496f58161fa46
[単語]
1.切実(せつじつ):心に深く感じるさま。身にしみて感じるさま。
2.塞ぐ(ふさぐ):ふたや詰め物などをして、穴をなくす。
3.用を足す(ようをたす):用事を済ます。大小便を済ます。
4.知見(ちけん):実際に見て知ること。
5.排泄物(はいせつぶつ):排泄された物。一般に大小便をいう。
6.糞便(ふんべん):大便。
7.次亜塩素酸ナトリウム(じあえんそさん‐ナトリウム):強アルカリ性で、殺菌消毒剤や漂白剤として使われる。
8.漂白剤(ひょうはくざい):漂白に使用する薬剤。
9.清拭(せいしき):病人などのからだを、タオルなどでふいてきれいにすること。